ふつうの学生が起業を志すまで
日本中の住まいに関する情報を集め、情報のインフラを整えれば、誰もが理想の住まいに巡り会えるはず――。
そんな想いから、ネクストはスタートしました。
基幹事業である住宅・不動産情報ポータルサイト『HOME’S』は、日本最大級となり、売上高は5年連続で対前年比150%以上の成長を続けています。また2006年には、地域コミュニティサイト『Lococom』をスタート。
「住まい」だけではなく、「暮らし」に関するあらゆる分野の情報を簡単に見られるようにすることで、人々の生活をより便利に、より豊かにする情報のインフラを目指していきます。
今回から3回にわたって、私の起業の経緯から今後のビジョンまでをお話します。
ちゃらんぽらんな自分と決別し、「人生のスイッチ」をオンにしたとき
大学生時代の私はちゃらんぽらんに生きていました。シーズンスポーツ系サークルに所属していて、気の向くままに仲間たちと遊んだり、お小遣い稼ぎのためにアルバイトをする生活。授業にもほとんど出ない。決して良い学生ではなかったですね(笑)。
そんな自分を変えるきっかけとなった出来事が就職活動の時期に訪れました。それはある企業の最終面接を受けた時のことでした。学生3人の集団面接でしたが、私以外の2人が学生時代に一生懸命取り組んだ経験を自分自身の言葉で話していたのに対し、私は作り上げたシナリオどおりに話をしました。作り上げたシナリオですから、話している自分でさえうわすべりしていることを感じました。そして案の定、選考結果は不合格でした。このとき、これまでの21年間で「これを成し遂げた!」と誇れるものが何一つ無いことに気づかされました。
もう一つショックな出来事は、当時お付き合いしていた彼女にふられたことです。彼女は「ニューヨークに留学して、ニュースキャスターになるための勉強をしたいの。だから別れて」と言いました。彼女が思い描いているニュースキャスターの採用倍率はとても高く、簡単になれる職業ではありません。しかしそれをわかった上で、大きな夢を持ち、自分のなりたい職業に向けて第一歩を踏み出そうとしていました。自分がふられたということだけではなく、明確な目標を持ち、それを実現しようとしている彼女とは正反対に、将来に対する明確な目標がなかった自分に気づき愕然としました。
この二つの出来事で、「過去」についても「未来」についてもいい加減で本気でなかったことに気づかされた私は、このままではダメだと強く思い、生き方を変えよう、「人生のスイッチ」をオンしようと決めたのです。何も成し遂げたことのない自分に別れを告げて、「人生をかけて一大事業を成し遂げる」、そして「5年以内に独立する」と決心しました。そこでまずは就職して、5年間で伸びきっていた心と体を筋肉質に鍛えなおすために自分を追い込むことにしたのです。
就職活動では、商社、金融、生保、マスコミ、建設、プラント、IT、デベロッパーなど、片っ端から訪問しました。最終的には、当時デベロッパー業界でも若々しくて勢いのあったリクルートコスモス(現:株式会社コスモスイニシア)に就職することに決めました。
リクルートコスモスでの配属は、新築マンションのモデルルームでの営業の仕事でした。そこで、後にネクストを起業するきっかけにもなった、ある出会いがありました。
起業のきっかけになったある夫婦との出会い
その日、私の担当していたモデルルームにあるご夫婦がいらっしゃいました。
ご夫婦はすでにさまざまなマンションを見ていましたが、なかなか自分たちが思い描いている物件に出会えなかったそうです。そんなご夫婦が偶然にも私が担当していた物件を大変気に入ってくださり、「ああ、これだ。私たちの理想の住まいはこれです」と購入を決心したのです。ところが、残念なことにローンの審査に通らず、購入をあきらめざるを得ませんでした。
契約できなかったご夫婦の落胆ぶりは大変なもので、私にもその気持ちが痛いほど伝わりました。普通は「仕方ない」で済ませて、次のお客様に対応すべきなのですが、当時の私は新入社員だったせいもあり、ご夫婦の失望が深く胸に響いたのです。このご夫婦のために「何とかして、いい物件を探してあげたい」と純粋に思いました。私は、ご夫婦から希望条件をさらに詳しくヒアリングし、その条件に合う物件を探し回りました。自社の新築物件をはじめ、中古物件、さらには他社の物件情報も集め、ご夫婦に提供し続けました。とにかく「ご夫婦の希望を叶えたい!」という気持ちだけで行動していました。
結局40件近くご紹介しましたが、ご夫婦はその中から他社の新築マンションを購入されました。もちろん上司からは「一円にもならないことなどするな!」とこっぴどく叱られましたが(苦笑)。
それからしばらくして、ご夫婦がわざわざ私の担当しているモデルルームにお礼を言いに来てくださいました。
「井上さんが本当に私たちの立場に立って一生懸命物件を探してくれたおかげで、素敵なマンションを購入できました。井上さんのマンションを購入出来なかったのは残念だったけど……。本当にありがとう」と満面の笑顔でそうお礼を言ってくださいました。
そのときのご夫婦のうれしそうな笑顔を見たときに私は頭のてっぺんからつま先まで幸福感でいっぱいになりました。
そしてこの時、私がやるべきことが見えてきました。
「これから先、ずっとこういう笑顔をつくり続けられる仕事がしたい」
「住まいを探している人に、それぞれのライフスタイルに合った住まいをみつけてほしい」
この想いが、私を「起業して『HOME’S』を創る」という行動に突き動かしたのです。
詳しくは次回お話したいと思います。
株式会社ネクスト
代表取締役社長 井上高志